檜枝岐歌舞伎

 自宅の隣に生徒数500~600人程度の小学校があるが、人口がこの小学校とあまり変わらないくらいの小さな村が福島県にある。福島県の南西端に位置する檜枝岐村である。

 

 福島県のほぼ中央に位置する郡山市から車で約2時間40分、新潟県、群馬県、栃木県と境界を接し、尾瀬国立公園の福島県側玄関口として知られている。住民は「星、平野、橘」姓が大半を占め、先日もNHKのある番組で名前に関わるいきさつ等が紹介されていた。

 

 この檜枝岐村に江戸時代から続く、伝統芸能が今でも残っている。檜枝岐歌舞伎である。5月、8月、9月の年3回公演が行われ、毎回多くの観光客を集め、村内の宿は軒並み満室になる。今年は令和のお祝いということで、6月に特別公演があることを耳にし、この機会にと思い、檜枝岐村観光協会に電話をかけ、村の温泉宿を予約してもらった。

 

 開場は午後6時、開演は7時なので、当日5時に宿で早めの夕食を取り、会場まで歩いて行く。6時10分前に会場に着くと、既に観客が並んで開場を待っている。会場は歌舞伎舞台が国の重要有形文化財に指定されており、舞台の前にシートを敷いた平場の観客席がある。その平場の観客席を囲むように山の斜面を利用した石段の観客席が設けられている。自然を利用したコロシアムといった感じで、歴史、文化、伝統、神事等を感じさせる雰囲気である。

 

 舞台はまず歌舞伎の前に、三番叟(さんばそう)という清めの踊りで開幕する。面を付けた踊り子が軽やかに舞う。それが終わると、いよいよ歌舞伎が始まり、檜枝岐歌舞伎のおはこの一つ「奥州安達ケ原 文治館の段」が繰り広げられる。村民らでつくる千葉之家花駒座が、迫真の演技で観客の心を鷲づかみにする。

 

 あーおもしろかった。演技よし、雰囲気よし、サービスよし、食事よし、宿よし(素朴で)。住民と行政が一体になり、伝統と観光を両立している。渋い大人にお勧めのエンターテインメントである。