ランチの価格

 25年程前、初めて東京に転勤になり、さすがに東京のランチは価格が高いなと感じた。しかし、最近たまに東京に行ってランチを食べても、それほどこちらと価格差を感じなくなった。もちろん、東京で高いお店はいくらでもあるが、一般的なサラリーマンが行くようなお店のランチ価格は福島とほとんど変わらない。地方に比べて東京の方が地価や家賃はずっと高いだろうし、人件費も高いだろうに、どうしてランチの価格はあまり変わらないのだろうか?

 

 今朝の新聞に、歴史社会学者・小熊英二氏の「安くておいしい国の限界」という投稿記事が載っていた。氏によると、最近のインバウンド旅行客の増大は、実は日本の物価が安いことにあるという。最近の海外における物価上昇は激しく、特に経済発展が著しいアジア諸国の上昇の程度は甚だしい。物価が安定している日本は相対的に物価が安くてお得な国になったのだと言う。ヨーロッパでは、サンドイッチに飲み物程度のランチでも1000円以上するのが普通で、牛丼チェーン店等、500円以下でランチを食べられる日本は、海外の人にとってはとても安くておいしい国なのだ。

 外国人にとっては安くておいしい国であるが、それを支えているこの国の国民にとっては逆に過酷である。

 

 最近のインバウンドの急激な増大は、日本の良さが認められているからだと一般に認識されているが、日本の物価の相対的な安さが大きな要因となっているとすると、喜んではいられない。今のところ日本は先進国ということになっているが、政府が掲げる観光立国への道とは、安さを売りにする後進国への道ではないかと懸念される。

 

 ランチが安いのはありがたいが、いつの間にか日本という国自体が安っぽくなってしまうのではなかろうかと心配している。