引出物

 最近久しぶりに結婚式に出席した。新郎が20代後半、新婦が20代前半と初々しく、明るく華やかで、出席者も多いりっぱな結婚式であった。

 

 私の同級生には、いまだ未婚の男性も少なくない。社会の変化や価値観の多様性等により、結婚観についても私が結婚した頃と変化している。

 私が結婚した当時はまだバブルの余韻が残っていたころで、正規雇用は当たり前で、終身雇用、定期昇給等が基本的に維持されていた。学校を出てどこかに就職して、毎年給料が上がって、結婚して子供が生まれて、マイホームを住宅ローンで買って、定年まで勤めあげるというのが、その頃の典型的な日本人の生活スタイルであった。現在もなおこのような価値観は残ってはいるものの、日本経済の長期的な低迷、インターネットの普及、グローバル化の進展、格差の拡大等、価値観は多様化し複雑化している。

 

 結婚観についても多様化しており、まず第一に結婚しない人が圧倒的に増えた。昔は未婚の人は白い目で見られ肩身が狭かったが、現在はそれも一つの生き方として認められつつある。また、籍だけ入れて結婚式を行わなかったり、結婚式を数年後にやったり、事実婚の状態であったり、各人各様であり、伝統的な結婚観が崩れつつある。

 

 結婚式についても、以前は必ずと言っていいほど仲人を立てていたが、現代社会においては、式の仲人(たいていは職場の上司や地元の名士等に依頼していた)は消滅してしまった。また、結婚式の引出物だが、最近は物の代わりにカタログを贈り、招待客に自由に選んでもらうスタイルが主流のようである。主催者側は引出物を何にしようかあれこれ考える苦労から解放され、招待客側にしても自分の好みに応じて好きなものを選択できるので、一石二鳥ということなのだろう。

 

 しかし、カタログの引出物にいまいちありがたみが感じられないのはなぜだろうか。実を言うと、4、5年前に出席した結婚式で、引出物としてカタログが入っていたのだが、うっかりカタログの存在を忘れてしまい、気づいた時にはもう申し込み期限が過ぎていたということがあった。

 

 大事な人に贈り物をするとき、その人に対してご自分で選んでくださいとカタログを送るだろうか?母の日のプレゼントにカタログを贈る人がいるだろうか?実際そういう人はいるかも知れないが、贈られた方はどう思うだろう。プレゼントって、相手が選んでくれるからプレゼントなんじゃないのかな。

 

 贈り物を選ぶことははっきり言ってめんどうなことである。相手はこの贈り物を気に入ってくれるだろうか、同じものを既に持っているのではないか、色は何色がいいのだろうか、・・・等々、いくら考えても正解がないからである。

 

 しかし、貰い手にとっては、実はそんなことはどうでもよく、相手が贈ってくれる物でさえあれば、何でもいいのである。なぜなら物を贈るという行為自体に、相手の気持ちが含まれているからである。結婚式の引出物としては、昔は鍋、やかん、スプーンセット等の生活用品が多く、正直たいした物ではなかったが、貰い手はどんなものであろうともありがたく受け取っていたのである。 

 

 結婚式も時代の変化に合わせて変わるべきものではあるが、合理性が進み過ぎると、大事なことまでも失われてしまう。