相撲

 先日の大相撲初場所で琴奨菊が初優勝を飾った。日本人の優勝は10年振りで、やっと長いトンネルを抜け、ホッとしている。

 

 私が小学生の頃、小学校のグランドの片隅に相撲の土俵があった。屋根付きで外気にさらされてはいたが、りっぱな土俵であったと記憶している。毎年秋になると校内の相撲大会があり、4年生以上の生徒は出場が義務付けられていた。

 私はこの相撲大会が嫌いだった。なんでこんなことをさせられるのだろうと、子供ながらにいつも思っていた。案の定、いつも初戦で負け、勝った記憶は全くない。まず第一に闘争心というのがまるでなかった。元来私はおっとりした性格で、人との競争が苦手だった。いくらスポーツとはいえ、人から投げ飛ばされるのは嫌だったし、人を投げ飛ばすことも好きではなかった。第2に体があまり大きくなく、相手が大きいと初めから自信を喪失していた。

 

 小学生時代から40年近くの歳月を経たが、私は相変わらず人との競争が苦手である。ただ、当時との違いは、そういう自分自身の性格を理解し、受け入れているということである。

 

 30代の頃までは自分自身というものがよく分かっていなかった。40代に入り、自分の気持ちを表現する語彙がいつのまにか増えて、やっと自分がどのような人間かということが分かってきた。そして、人は人、自分は自分と割り切れるようになり、仕事や日常生活でストレスを感じることがほとんどなくなった。

 

 自分自身のことがわかってくると、しだいに自分自身の土俵で相撲が取れるようになってくる。自分の土俵の中では、より自由に、より自然に力を発揮することが可能である。自分のことがわかっていないと、基本的には他人の土俵で相撲を取ることになる。しかし、人生には他人の土俵で鍛えてもらう時期も必要である。

 

 琴奨菊は今場所、自分のスタイル(がぶり寄り)を貫き、自分の土俵で相撲を取り、結果的に優勝を飾った。琴奨菊は他の力士との競争に勝ったのではなく、自分自身との闘いに勝ったのではなかろうか。