コーヒーショップ

 休みの日の午前中はよく、近所のコーヒーショップに行き読書をする。この時間帯は比較的すいており、落ち着いてじっくりと読書ができる。お店に行き、コーヒーを注文し、本を読み帰って来る。いつもただそれだけのことなのだが、5、6年も通っていると、まれに変わった人や珍しいシーンに遭遇したりする。

 

 かなり前のことであるが、私の左手前方の席に座っていた女性が、いきなり目の前の男性にコップの水をかけ、立ち去っていくのを目撃したことがある。まるでドラマの1シーンのようであった。男性は女性を追わず、困惑気味に、ハンカチで顔を拭いていた。女性の顔はほとんど見えなかったが、後姿がとても怒っていた。

 

 2、3年くらい前のことであろうか、いつもの如くコーヒーを飲みながら本を読んでいると、突然近くで誰かが手足を動かすざわめきを感じた。気が付くと、3mくらい離れた場所に座っていたウインドブレーカーを着た中年の男性が、どこかを指さししていた。しかし、指さししている方向には特に何も変わった様子はなく、そのおじさんは言葉を発することもなく、腕を下ろした。私はまた本の世界に戻ったが、しばらくするとそのおじさんは再びどこかを指さしした。おじさんには他の人が見えない何かが見えるのであろうか。とにかく、突然腕を下から上に突きあげて、無言でどこかを指さすのである。本当は指さしではないかも知れないし、心に病をもっている人なのかも知れないが、こちらはこのおじさんのことが気になって、読書に集中できなくなってしまった。結局このおじさんとは、コーヒーショップで2回顔を合わせたが、最近は全く顔を見ていない。

 

 ごく最近のことだが、いつもの如くコーヒーを片手に本を読んでいると、突然女性のすすり泣きが聞こえてきた。私の左手の2番目の席に、若い男女のカップルがテーブルを挟んで座っていた。女性はしくしくと泣き続け、男性が何か言葉をかける。やがて女性は泣き止み、二人は黙ったまま下を向き、無言のまま時は流れる。すると、女性はまた、しくしくと泣き始め、男性は何か声をかける。やがて女性は泣き止み、また静寂が訪れる。別れか?それとも○○とか、○○であろうか?

 まあいずれにせよ、私には関係のないことだ。

 またコーヒーを飲み、本を読む。そして、時間は流れていく。