北京

 今月仕事の関係で、北京に3泊4日で行ってきた。初めての中国旅行である。

 

 北京国際空港に到着し、入国手続きを済ませ、到着口を出ると、旅行会社の名前や個人の名前等のプラカードを掲げた大勢の客待ちの視線が待ち構えている。私はネットで航空券とホテルを予約したので、ガイドがいるわけでもなく、とりあえずは自力でホテルへ行かなければならない。まず、お金を円から元に両替しなければ、何も始まらない。到着口出口付近にいくつかの銀行の両替所があったので両替したが、手数料がとても高く、60元(約1,150円)位取られた。完全に足元を見られている。

 

 ホテルまで地下鉄で行こうと思い、駅の方向をキョロキョロ探していると、黒タクの呼び込みから声をかけられる。中国では違法タクシーを白タクではなく黒タクと呼ぶ。中国でぼったくりトラブルが一番多いのがタクシーで、特に多いのが北京空港からのタクシーとのことである。旅行ガイドブックには、タクシーに乗る場合は正規の乗り場から正規のタクシーに乗ること、車に乗ったらメーターを押しているか必ず確認すること、と記載してあった。実際に、現地で出会った日本人から聞いたのだが、空港で誘われるままに黒タクに乗ったところ、通常は100元位のところ、300元以上(約5700円以上)をぼったくられたと言っていた。

 

 3日目は1日予定が何もなかったので、北京の中心街をブラブラ歩いた。途中でトイレに行きたくなり、公衆便所に入ったのだが、日本との違いにとまどった。仕切りが全くないのだ。小が1つに、大(和式)が1つの小さな公衆便所で、私が小の用を足していると、現地の人が入ってきて、ズボンを下ろすなり、すぐ横の大便器に腰をかがめ、用を足し始める。両者の間にドアも壁も仕切りも全くない。同じ空間の至近距離で、それぞれが大と小を行っている。相手は用を足しながら、タバコを吸い始める。彼にとっては、これが日常であり、普通のことなのだ。他の公衆便所にも入ってみたが、もっと大きな公衆便所では、大便器間に腰ほどの高さの仕切りがかろうじて設けられていた。

 

 日本人と中国人を比べてみると、プライバシーに関する考え方がかなり違うのではないかと感じる。中国人にとって、トイレが仕切られているか、仕切られていないかは大した問題ではなく、プライバシーの範疇に入らないようである。

 以前日本で、知り合いの中国人に、あなたの年収はいくらですかと、質問されたことがある。日本人にとって、自分の給料や年収は極めてプライベートな個人情報である。しかし、中国人にとっては、給料や年収は基本的にプライバシーの範疇に入らないようで、知人同士でオープンに情報を交換し合っている。

 どちらが良いか悪いかという問題ではないが、文化の違いを感じる。

 

 北京の地下鉄や食堂等で、親子やカップルや友達同士やらを観察していると、日本人と比べて、お互いがべったりといちゃついているというか、とても親しそうであるというか、とにかくお互いの絶対的な距離が近いように感じる。プライバシーの壁が低いように、心の壁もとても低いのではなかろうか。私は言葉が不自由な中、一人で行動していたせいもあり、彼らがとてもうらやましく感じた。しかし一方では、身内の中ではとても親密だけど、他人には意外と冷たいというのも、中国人の一つの特徴である。

 

 最終日、午前中時間が空いていたので、日本人に評判のマッサージ店に行き、マッサージをしてもらった。マッサージをしてくれたのは、四川省出身の36歳の女性だった。約2時間の間、じっくりと中国人と話ができたのは、とても有意義であった。彼女は夫とともに四川省から北京にやってきたが、現在夫は失業中とのこと。平日の仕事は暇であるが、土日はとても忙しく、朝から晩まで約11時間、ほとんど食事もとらず、働いていること。北京には友達がいなく孤独で、休日はやることがなく、休日が嫌いであること。日本にとても行ってみたく、特に東京に行ってみたいこと、等と話をしていた。

 

 マッサージをしてもらった後、帰国のため、来た時と同じように地下鉄を利用して、北京国際空港に向かった。余裕をもって、出発したつもりであった。しかし、ここで全くの思い違いにより、違う場所で降りてしまい、結局1時間ほど時間をロスしてしまった。旅行ガイドブックには、出国の際、空港には遅くても2時間前には到着するようにと記載されていたが、私が空港に着いたのは、結局出発時刻の1時間50分前であった。初めてのこともあり、正直あせっていた。そして、心にすきが生じていた。

 搭乗手続きの場所をキョロキョロ探していると、空港の職員らしきふくよかな男性が親切そうに、「どの便のチェックインの場所をお探しですか?」と聞いてきた。そして、「これは大変です。この便は急がないと間に合いません。私が案内するので、ついてきてください。」と。男に案内されるままに搭乗手続きを行い、なんの行列かよくわからなかったが、とにかく行列に並ばず、行列をすっとばし、空港の制服を着た係員のところまで行き、搭乗券を見せた。ふくよかな男は、「よかったですね、ここまで来れば、大丈夫です。では、この(制服を着た)職員の方に400元(約7600円)払ってください。」と言った。「エッ?」この時、私はやられたと思った。このふくよかな男は、制服姿の本当の空港職員とグルになり、私のようにとてもあせっている搭乗客を狙い、便宜を図ることで、私腹を肥やしているのである。行列に並ばなかったことにより、10分の短縮になったのか、20分の短縮になったのかわからないが、とにかく行列を飛ばして搭乗券チェックを受けたことは事実である。人の不安とあせりの心理に付け込んだ、巧妙な知能犯である。最後の最後に見事にやられた。

 

 中国語を多少勉強しているので、中国に行かずとも中国のことはある程度わかっているつもりでいたが、百聞は一見にしかず、である。一人で外国を歩くということは、それなりに疲れることだが、日本人としての自分を客観的に省みるいい機会でもある。機会が許せば、また中国に一人で行ってみようと思っている。

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コメント: 1
  • #1

    50課 (木曜日, 08 10月 2015 22:07)

    舘君がそんなに凄い人だとは、当時は気づきませんでした。わたくしたち駄馬とは違うんですね。